映画の日~銀行からのプレゼント
銀行から1通の封書が届いた。
開けてみると、結婚式の披露宴で一人一人に配られるメニューカードのようなかしこまった招待状が入っている。
何の「招待状」かというと、未公開映画の試写会の招待状である。
二つ折りにしてある厚紙を開くと、支店長名義で
「△△ご夫妻を未公開映画 “Il y a longtemps que je t’aime” にご招待させて頂くこと、まことに光栄に存じます。2008年3月18日、19:30、○○映画館の7番ホールへのご来場、心よりお待ち申し上げております。」
とある。
銀行からこんな招待をうける云われは無いので、ちょっと首をかしげてしまった。
大口預金者だけを優待するのなら、うちが招待されるわけがない。
でも、こういうサービス、顧客としてはちょっと得をしたというか、自尊心をくすぐられたというか、悪い気はしないものだ。
当日、夫と待ち合わせをして指定の映画館へ向かった。
映画館のエスカレータを登りきると、既に担当の銀行員が待ち構えていて、速やかに招待客を貸切ホールに誘導していた。
チケットを買うために長蛇の列を作っている一般客を尻目に、ちょっとした優越感に浸りながら渡り廊下を歩いていくと、
「映画の春! 3月16. 17. 18日の3日間は フランス全国 3.5 € 均一!」
という大きな看板が目に付いた(*通常新着映画は10€くらい)。
よく考えてみると今日は3月18日。3.5 € 均一の日である。
気分的にお得感が多少薄れてしまったが、何といってもチケットを買うのに長時間並ばなくてもいいし(特に、この時期の券買所はものすごい人ごみ)、未公開映画を先立って見られるのは嬉しかった。
ホールが招待客でほぼ満席になると、銀行の支店長がマイクを持って挨拶をし始めた。
「我々○○ 銀行 ××支店一同、いつも当行をご愛顧頂いている皆様をこのような会にお招きでき、誠に光栄に存じます。本日ご覧頂くのは“Il y a longtemps que je t’aime(=昔からあなたを愛しています)” という映画でございます。
なぜ、数ある未公開映画の中からこの映画を私が ―そう、選んだのはこの私なのですが― 選びましたかというと、まずタイトルが気に入ったからです。このタイトル、まさしく我が○○銀行××支店一同のお客様に対する気持ちにぴったり一致しているではありませんか(招待客苦笑….)。
そして、この映画のストーリー、とても感動的です、泣けます。
今夜は共に感動の涙を分かち合いましょう! それでは、最後までごゆっくりお楽しみ下さい。」
ホールが暗くなる直前、周りを見回すと、顔見知りの銀行員が慌てて残っている前の方の席に腰掛けるのが見えた。
その日、銀行との距離がなんとなく少し縮まったような気がした。
フランスの銀行、いい意味でも悪い意味でも、フランスという国を実によく体現していると思う。
この国に移住した当初、カルチャーショックを受けたのも、銀行との付き合い方だった。
ここでは口座を開いたらそれで終わりではなく、必要なサービスを受けるためには、銀行と“うまく付き合っていくこと”が不可欠なのである。
フランスの銀行事情については、日本のそれとは大きく異なるので機会を改めて書いてみたい。
さて、試写会後の感想。
悔しいことに、支店長の予言どおり泣いてしまった!!!しかも夫婦そろって(何という不覚!)。
ちなみにこの映画、2008年ベルリン映画祭でカトリック/プロテスタント エキュメニカル審査員賞(???)なるものを受賞しているらしい。
* Il y a longtemps que je t’aime
公式サイト:http://www.ilyalongtempsquejetaime-lefilm.com/
監督:フィリップ・クローデル
キャスト:クリスティン・スコット=トーマス、エルザ・ジルベルシュタイン
2008年03月21日


